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Chapter.12

 少女は忽然(こつぜん)と姿を消した。
 どこにも行けないはずの儚(はかな)い少女。
 しかし、王子は思い出したのだった。
 泉のほとりでのあの青い目の精霊との約束を。
 あの少女の正体を。
 それは精霊との契約が切れたあかしだったろうか。
 ともかくも精霊は甦り、主人とともに去ったことだけは明らかだった。
 それでも、わたしとともにいて欲しかったよ、ヨナ。
 王子の身体にはあの夜の罪がいまも温かく流れていた。
 真冬の夢のように儚く美しい少女の、眠れる狂気すら呼び覚ます豊かな薫りの、熱く、濃く、切ないほど甘い血が。
 だれよりも愛している。
 あの夜、あなたのいのちを奪ったことでそれが分かった。
 震えるうなじに牙を立てたそのときに、わたしは自分の本性を理解した。
 わたしがあなたを愛しているというその意味も。
 あなたがなにものだったとしても、たとえそれがあなたを苦しめることになったとしても……わたしは、もう迷うことはできない。
 愛している、ヨナ。
 どこにいる?
 わたしは、ここで祈っている。
 あなたがわたしとともにあることを。
 祈りはいつか現実のものとなるだろう。
 そう、あなたの血がわたしのこの身に流れている限り……それは叶わぬ祈りではない。
 そうだろう?


Epilogue

 その少女の名は、『狂気』。
 かつては『愛』という名で呼ばれたこともあったかもしれない。
 いまは迷宮の奥深くに眠っている。
 確かに、彼女はそこに息づいている。
 そして静かに、目覚めの刻(とき)を待っているのだった。
 愛しいひとに再び出会う、その、目覚めの刻を。





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