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Chapter.1 |
その少女の名は、『狂気』。 封印されし魂の化身なり。 目覚めを許されぬ眠りの戒(いまし)めより逃れ出で、 今 運命の邂逅(かいこう)を遂(と)げる。 |
Chapter.2 |
夜の国の聖なる血をひく、美しき王子は森を彷徨(さまよ)う。 彼は神の血を継いでいる。 真昼の国を支配する神に反旗を翻(ひるがえ)した気高き闇の神の血を。 憂いを帯び、彼の見てきたすべての時間を哀しみとともに封印したかのような漆黒の瞳。 密やかに甘い香りを漂わせる漆黒の髪。 月の輝きの如くほの光る白い肌。 朱を含んだかのように紅く冷たい唇。 古き神を映したかのようなその美貌の代償はふたつ。 ひとつは、昼に裁かれること。 彼の血は太陽の輝きには耐えることができなかった。ゆえに夜の国を出ることは叶わない。 そしてもうひとつ。 神の血は、その高貴なる反逆の血は、その類(たぐ)い希(まれ)な美しき種族の命脈と王国を守護するちからを保つため、ひとの血を求めた。 はちきれんばかりのいのちに溢れた、温かく薫り高く濃く甘い血を。 それはまるで呪いのように彼を縛った。 彼は生きたかった。 夜のすべてを愛していたがゆえに。 森の静けさ、川のせせらぎ、石畳の街、街の雑踏、そしてなによりもそこに住むひとびとを、彼は愛してやまなかった。 しかし、彼の生はその愛しいひとびとの血をもってしか購(あがな)うことはできなかったのだ。 この世界を護ることも。 自分のいのちを購うために、愛しい者の幸福な暮らしを護るために、なにに代えても惜しくないはずの、そのいのちを奪う。 その背離(はいり)。 彼はそんな血を、そんな自分を呪っていた。 |
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