サザラの右目 ヴァリアの牙

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第1章 1

 意識を失っていたのではないか、レイスはそう思い、すぐさま否定した。気がつけば、冷たい水の底だった。泳ぎは出来るが、流れの中で水をかくと、衣服が麻から鉛に変わったように感じられた。
(痛い)
 右目が疼(うず)いた。重い体を水面まで持ち上げ、レイスは安堵した。
(生きている)
 流れの中で上下を見失わず、上流下流まではっきりと認識できたのは、この右目のおかげだろう。だが、同時にこの右目がレイスを村から追放したのだ。
(父上)
 岸辺に這うようにしてたどり着き、細かな砂利の上に体を投げ出すと、レイスは我が身をかき抱いた。二人殺された、そうアズグがいった。その言葉が頭を埋め尽くす。
(わたしのせいじゃない。父上がわたしに儀式を施したから……村の者たちがわたしに何も教えてくれなかったからだ)
 レイスは左目を強く閉じ、そして開いた。青空がどこまでも広がっている。
 初めてレイスは、周囲を見回した。川は激流でも濁流でもなくなっており、空気は濡れた体に心地よい温かさをもっていた。
(随分と下流まで流されたようだ)
 レイスにはここが何処(どこ)であるのか全く分からなかった。村の外の世界は知らない。女は村から出てはならぬ決まりであったから当然だが、女で唯一狩りへ出掛けることを許されたレイスも、村の周辺の森しか知らない。
(何か食べ物が)
 一度安堵すると、次は空腹感に苛(さいな)まれた。
 レイスはずぶ濡れのまま、再び川に入った。
 緩い水際で、水面に自身の姿が映り、レイスは小さく悲鳴を上げた。水の冷たさが効いたのか、みみず腫れは幾分ひいてはいたが、右目は未だ腫れの中に埋没している。
 あまりのおぞましさに、レイスは足で醜い顔を踏み付け、そのまま腰まで流れに浸した。
 豊かな川だった。小魚が光を反射し、きらきらと輝いている。
 右目はここでも役立った。
 水に手を入れると、いとも容易(たやす)く魚を捕まえることが出来た。枯れ枝を集め、レイスは魔術で火を起こした。魔術は確かに全くものにはならなかったが、小さな火を起こすという些細な能力が、レイスの命を繋いでいる。あれほど嫌った父の教えが――。
(皮肉なものだ)
 焼き魚は何の味もしなかったが、レイスは貪(むさぼ)るように頬張った。まるで何年も食べ物を口にしなかったかのように、無心で食い続けた。
(生きてやる。絶対に生き続けてやる)
 水面に顔を埋め水で喉を潤すと、レイスはおもむろに上着の袖を引き千切った。それを両足に巻きつけ、靴の代わりにする。儀式のために着ていた長衣の裾も、裂いて帯を造り眼帯にした。火の前に腰を降ろし、濡れた服を乾かす間、レイスは顔に触れ、腕を見つめた。顔は半分ほど布で覆われ、右目は完全に隠れている。腕の傷はすでに白い筋となり、あと数日もすれば完全に消えるだろう。
(化け物だってかまうものか)
 レイスは河原に転がる石を打ち砕いた。数個砕いた中から、最も鋭い先端を持つ一つを選び出す。腰よりも長い黒髪を自らつかみ上げ、力まかせに切り取った。
 頭から重さが消えた。まだ湿り気の残った髪は、肩よりも少し長い位置で緩い風にさらされている。
(ラゴと繋がるものは、これで消える)
 右目が疼く。目を伏せると活気に満ちた町が暗い中に浮かび上がって見えた。
(おまえが行けというなら、行ってやる)
 どうせ他に行くあてなどないのだから。
 右目が指し示す道へと、レイスは迷うことなく歩き出した。

 
 レイスが幌(ほろ)付きの馬車を助けたのは、河原を去って、昼と夜とが五回訪れたあとだった。善意から助けに向かったのではなく、馬車を襲う野盗たちの剣筋の甘さに、勝算を得たからにすぎなかった。
(助けてやれば、武器も、食料も得られる。町へも乗せて行ってくれるだろう)
 目指す町の方角は何となく分かっても、それは遙か彼方にあるようだった。行けども行けども森が続くばかりで、レイスは辟易していた。
 日はやがて暮れる。木に登り幹を抱くようにして眠るのも、草の実を齧(かじ)ったり、樹液を啜ったり、火で炙っただけの臭い獣肉を口にするのも、もうたくさんだった。
(せいぜい、恩を売ってやる)
 慣れぬ剣を手に愚かにも戦おうとしていた老婆から武器を取り上げ、代わりに振るうと、野盗の男たちは皆、驚愕し、数刻もしないうちに蜘蛛の子を散らす有り様となった。
 口々に化け物だと叫んでいる。
(何とでも呼べばいい)
 むしろ、レイスの胸には昏いよろこびが満ちた。野盗どもの攻撃を全てかわし、最後には頭(かしら)であろう筋骨隆々な男と真っ向から勝負して、力で圧倒したのだ。
 無様に這いつくばる男を見下ろしながら、どこを剣で貫けば最も早く息の根を止められるか、どこを突けば長く苦しめられるのか、そんなことばかりが頭を回る。
『族長も、スールも奴に殺された』
 不意にアズグの声が蘇った。
 右目は今も疼く。驚異的な力がどこから生まれたかは、容易に想像できる。しかもそれは限りなく断定に近い仮定だった。
(化け物になってしまったなら、それでいい。この力を存分に利用するだけだ)
 レイスは剣を振り上げた。もう二人も殺したのだ。一人増えようが、大したことではない気がした。
 だが、腕に力が入らなかった。今まで簡単に振り回せた剣が急に重くなる。
 振り上げたまま微動だにしないレイスに、這いつくばった男は命請いを始めた。見逃がしてくれれば、持てるだけの金貨をやるだの、新たな頭領に迎えたいだの言う間に、レイスへの賛辞を何度も繰り返す。
(なんと卑小な存在だろう)
 直接剣を交えるまで、この男は部下の不甲斐無さに激怒しつつも、レイスを鼻で笑って下品な言葉で侮辱した。だのに今、形勢が逆転すると自分の命欲しさに媚びへつらう。
(殺した方がいいような、くだらない奴だ)
 レイスは心の底から思った。だが、やはり剣は重く、降りおろせない。
 剣に迷いが生じているのが伝わったのか、男は下卑た薄笑いを浮かべたままじりじりと後退する。
 突如として、裏返った叫びが周囲の森に響き渡った。レイスの前に突然、四十前後の男が現れたかと思うと、間をおかず、逃げ出しかけた野盗の首に剣を振り下ろす。
 力が足りなかったのだろう、剣は首の半ばで止まっている。だが、それで充分だった。逞しい体はどうと倒れ、血溜まりの中で野盗の命はほどなく消えた。
「と、とりあえず、礼を言おう」
 必要以上に息を乱している男は、この馬車の御者だった。
「わたしは……」
 止めをさせなかったという言葉をレイスは飲み込む。足元に老婆が蹲り、涙を流して、感謝の言葉を繰り返している。間違いなくレイス自身に向けられた言葉の数々に、彼女は困惑せずにはいられなかった。
(わたしは、人殺しなんだ。もう二人も殺した。あいつらだって、言っていたじゃないか、化け物だと)
 故郷を追われた時のことが蘇る。激しい嫌悪と恐れが、容赦なくレイスに向けられた。敬慕する師には殺されかけた。
「ありがとう」
 小さな声がした。レイスは我に返り、初めて、老婆の腕の中の存在に気づいた。まだ幼い少女だった。瞳の中にはまだ脅えがあるが、周囲を見回せばそれが、レイスが与えたものではないとすぐに分かった。
 若い男が老婆たちの背後に転がっている。仰向けに横たわり、胸から腹にかけて切り裂かれ、直視出来ないほど無残な殺され方をしていた。その顔は痛みに歪んでいたものの、気丈に礼をいった少女に、驚くほど似ている。
「おい、あんた」
 御者が、レイスに声をかけてきた。
「その様子じゃ、訳有りだな」
 レイスの衣服はひどくくたびれ、靴の代わりにと巻いた布は変色し、破れかけていた。
「訳は聞かねえ。金はもちろん、当座の武器、衣服、食料も提供する。この森を抜け、最初の町に着くまでこの馬車の護衛をしないか。あんたに悪い話じゃないと思うがな」
 悪い話どころか、もってこいの話だとレイスは思った。そのためにこの馬車を助けてやったのだから。
 だが、心に重いしこりが残る。
(きっと、止めを刺せなかったせいだ)
 それでも、こんな好条件をみすみす断る道理はない。小さく頷くと、老婆の顔が輝いた。
「これで安心して旅が出来ます」
 どこの馬の骨とも分からない者を拾って、何が安心なものかとレイスは思った。しかし、レイスの答えに御者も嬉しそうだった。
 結局、野盗に殺されたのは三人だった。何れも青年で、野盗と戦い、そして敗れてしまった者たちだった。死体を大木の根本に集め、落ち葉や木の枝で覆うと、馬車は用が済んだとばかりに出発した。捨て置かれた死体は、今夜のうちにも、森に住まう獣たちに食われてしまうだろう。誰もその事実については語らなかった。襲ってきた野盗たちのほとんどが逃げてしまったということは、いつ何時、彼らが再び襲ってくるとも限らない。それ以上に、一刻も早く目的地に着きたいと乗客の誰もが思っていたのだろう。
 幌の中には、老婆と少女、年老いた男、若い女が一人だけ。戦力になるのはレイスと御者しかいない。
「腕の立つ者を二名雇ったはずだが、みな、死にやがった」
 御者はため息をついた。
「俺があと二十若けりゃな。これでも、ドゥーエの戦で、敵将を一人討ったんだぜ。まあ、まぐれだったがな」
 その功績は結局、大国ファンディエンの正規兵に横取りされたがと御者は苦笑いした。ドゥーエの戦も大国ファンディエンもレイスは知らない。ラゴの村では、女たちは一生文字を習うことなく、結果本など読めるはずもなかった。レイスだけが特別に文字を習ったが、慣習をねじ曲げてでも教えてくれた父は、長になるまでは歴史や地理に関する本は読んではならぬと厳しく言い渡していた。
(あんな言葉、守る必要などなかったのだ)
 レイスは唇を咬んだ。
(わたしは、ただ広い世界を知りたかっただけなのかもしれない)
 長になれば村を出て、町にも行ける。本も好きなだけ読める。そう、父はいった。だから怪しげな儀式を父が強行したとき、拒否し、父から逃げることもせず、叔父アズグに相談する事も結局できず、果ては儀式に必要だからと父に言われるがままに、体の自由を奪う薬を口にしてしまったのだ。
(わたしは、自らに嘘をついていた)
 結果、父を殺し、仲間を殺し、そして醜い顔のまま、村を追われる羽目になった。
(シャイアス)
 幼な馴染みの青年の優しい顔を思い出し、レイスは初めて泣きたくなった。


 旅はおおむね平穏だった。
 馬車は町と町とを繋ぐ辻馬車で、最初の町が過ぎても、レイスはそのまま馬車に止まり、用心棒の仕事を続けていた。
「どうせ行くあてが無いんなら、王都まで行ってみろ。でかい町だし、おまえさんみたいな腕の立つ者に仕事をくれる場所もあるしな」
 最終的にこの馬車の終点はヴァーニ王国の王都、ドーリエルだという。
 かなりうまい話だが、御者の言葉に嘘は無いようだとレイスは判断した。
 彼には下心がある。最初の町に着くまでにこの馬車は二度野盗に襲われたが、レイスが全て蹴散らした。以後、この馬車が襲われることはなく、御者としては、掘り出しものの護衛を簡単に手放したくはないのだろう。
(どうせ、わたしも利用しているのだ)
 王都が近づくにつれ、客の出入りは激しくなった。
 その女が客として乗ってきたのは、王都の一つ前の町でだった。今まで、客のほとんどが馬車付きの護衛者であるレイスに、興味を抱くことはなく、また、布で顔の半分を隠し、伸び放題の黒髪には櫛も入れていない様子に、女だと気づく者も居なかった。
「おまえがレイスかい?」
 馬車に乗り込むなり、女はレイスの隣に腰を降ろした。
 フードを目深に被ってはいるが、透けるような白い肌と、溢れるばかりの銀の髪が、女の美しさを際立たせている。地味な長衣も布地は上質のもので、女の素性を一層謎めいたものにしていた。
「おまえ、何者だ」
 初対面であるのに、レイスの名を知っている。古びた外套の下で密かに剣の柄を握り締め、レイスは凄んだ。
「何者って、ただの客だよ。……あんたの名を知っているのは、そりゃ、あんたが有名人だからさ」
(この女、なぜ)
 心の内を読まれたようで、レイスは狼狽した。見たところ女は武器になるようなものは一切携行しておらず、また敵意もないように見える。
 だが、魔術師かもしれなかった。
 まざまざと蘇る悪夢。
 叔父アズグの放った魔術によって生まれた風が、レイスを渦巻く激流へと突き落としたのだ。
「あんた、腕が立つって評判のわりには、兎(うさぎ)みたいに脅えてるね」
 女の密やかな声には微かな笑いが交じり、レイスの声に怒気を含ませた。
「脅えてなどいない。それに何が評判だ」
「おやおや知らぬは本人ばかりかい。この馬車には鬼神が居るから魔物も寄ってこないと乗った客も御者も街中で宣伝してたがね」
「鬼神に魔物……」
 護衛であるからには馬車からは一歩も離れない――街で一泊する時も、律儀にも宿ではなく馬車でレイスは寝泊まりしていた。御者とも必要以上の会話をすることなく、客とは口すらきかない。行商人から品物をいくつか購入もしたが、それとて取り立てて会話らしい会話をしたわけではなかった。
 そういった行為が、結果的にレイスの耳に蓋をし、目に目隠しをしたのだ。
(わたしを鬼だというか)
 言い得て妙だと、レイスは昏い笑いが込み上げてくるのを抑えられなかった。
(だから、皆、目を合わさなかった)
 客たちはレイスに脅えていたのだ。だから殊更近づかず、言葉も交わす事なく、レイスを無いもののように扱った。
(どうせわたしは化け物だ。皆、よく分かっているじゃないか)
 だが、肝心の女の意図が分からない。なぜ、わざわざレイスに話しかけてくるのか。ただの酔狂なのか。それとも他に何か目的があるのか。
「あたしは、あんたと話をしたいから、この馬車に乗ったんだよ」
(まただ)
 レイスは女を凝視した。何事もなかったかのように美しい微笑が返ってきたが、レイスは不信感を拭(ぬぐ)えなかった。
(まるでわたしの心を読んでいるかのような)
 女が一段、声を低くする。
「あたしはね、あんたが隠してるその布の下に興味があるのさ」
 剣にかけた手をレイスは反射的に離す。
「違うよ。もっと上さ」
 言葉を失い、レイスは操り人形のように緩慢な動作で、布の上から右目に触れた。
「……おまえ、一体何者だ」
 問い質すはずの言葉に、微量だが震えが交じる。
「さっきも言ったろう。ただの客さ。だが、この世の中の様々なことを知っているかもしれないよ。たとえば、右目に奇妙な石を入れる一族のこととかね」 
「なんだと?」
「あんた、自分のことを知りたくはないかい? あたしが助言を与えてやってもいいんだよ?」
「助言……」
 まあこれと引き換えにだけどねと、女は親指と人指し指で円を作った。にんまりと笑うと、人間離れした美貌から近づき難さが消える。
 これは一種の掛けかもしれないとレイスは考え直した。女は確かに何かを知っている。得られるものの大きさは、払う金額によるのだろう。
(どのみち、王都に着くまでは金を使うこともそれほどない)
 食事はレイスの仕事代に含まれている。衣服は必要最低限あればいいし、武器も剣が一本あればそれでいい。
「では、これでどうだ」
 女の手に握らせたのは、金貨一枚だった。
「あんた、実は金の価値ってもんを分かってないね。それとも分かっていて、払うつもりなのかい? まったく、こんな大金もらったんじゃ、あたしはあんたに斬り殺される。銀貨五枚でいいよ」
 レイスが御者から王都までの賃金にと与えられたのは金貨一枚と銀貨十枚だった。無事に辿り着けば、さらに金貨一枚上乗せするという。
(あの御者、けちかと思っていたが、そうでもないらしい)
 ラゴの村は自給自足であったため通貨は必要なかった。男たちはその価値を知っているようだったが、彼らは町でしか金を使わず、結果、村を一歩も出ない女たちは、通貨の仕組みは知っていても現物を目にすることはなかった。
(銀貨五枚でも安いわけではないだろう)
 銀貨を渡すと、女はいそいそと懐に隠し、レイスの耳元に口を寄せた。
「王都ドーリエルで、ルガという男を訪ねるといい。色々な仕事を紹介する奴だが、居る場所が分かり辛いのさ。大神殿から北に二十歩行くと右手に細い路地がある。その路地の中に、一つだけ赤い扉がある。そこを叩きな」
 さすがにレイスは拍子抜けした。
「それだけか」
 これでは何の情報にもならない。語気荒く問うと女は指を三本立てる。
(なるほど、さらによこせと言うのか)
 レイスが銀貨を三枚渡すと、女は満面の笑みでもう一度耳元でささやいた。
「奴は魔族がらみの仕事を持ってることが多い。奴からはそういう仕事を迷わず貰いな」
「魔族?」
「よほどの田舎育ちだね、あんた。魔物は知っているだろう?」
 レイスは頷いた。体に強い魔力を帯びた、異形の生き物たちだ。かたちは様々で、動物のように見えるものも、昆虫のように見えるものもいる。滅多に姿を表さないが、出会って生き残る人間も稀だという。
 ただし、ラゴの男たちは、魔物に遭遇しても打ち勝てた。レイス自身も、彼らと共に戦い勝利したことがある。
 女は少しだけ考える素振りを見せた。
「まあ、魔物が人の姿をしていると思えばいいかねえ。強い魔力の固まりさ」
「化け物じゃないか」
 わたしと同じように。
 きぬ擦れの音さえ全くさせず、女は静かにレイスと向き合った。眼差しに深さが増し、小狡く金をせびった女と同一人物なのかと、レイスは目を瞬(しばたた)かせた。
「化け物かどうかは、会ってみりゃ分かるさ。とにかく、ルガを訪ねてみな」
 女はそのままごろりと横たわった。
「あんたの右目には強い魔力が秘められている。パンのことはパン屋に聞く、魔力のことは……魔族に聞くといいさ」
 それだけいうと、女は寝入ってしまった。ドーリエルまでまだ間があるし、時間潰しには最適なのだろう。驚いたことにレイスに近い位置に座っている乗客の幾人かも同じように寝入っている。
 レイスという護衛者が同乗している事実が、客を無防備にする。
(わたしなんかを信頼していいのか)
 猜疑(さいぎ)心はほかの誰でもない、自身に向けられたものだった。



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