キュモール隊の処遇 

 騎士Bにとっては、にわかに信じがたいことだった。
「それは、本当のことなのか?」
 地下牢には今、収容している罪人は居ない。この場に居るのは、当直の騎士Cと、彼の前まで当直だった騎士Bの2人だけだ。
 問われた騎士Cは胸を張った。
「嘘を言ってどうする。今回の脱獄の件に関しては、口頭注意だけだ。今受けてきたばかりだからな」
「始末書さえ書かなくていいのか?」
 ユーリが脱獄した際の当直は、騎士Bだった。それが注意も受けず、始末書も書かず、そんな馬鹿なことがあっていいはずがない。
「シュヴァーン隊長だよ」
 騎士Cは声を落とした。
 キュモールのシュヴァーン嫌いは周知の事実だ。嫌いというよりも、ねたみや憎しみの方が大きいのかもしれない。平民出であるのにもかかわらず人魔戦争で功績を上げ、隊長に大抜擢された。以後、騎士団長から重用され、「尽忠報国の騎士」と呼ばれたドレイク将軍からの信も厚く、各隊長を束ねる首席隊長として、その名声は留まるところを知らない。
 何年後になるかは不明だが、事実上、次の騎士団長は十中八九シュヴァーン隊長だろうと、もっぱらの噂だ。
 騎士団長の座を狙っているキュモールからしてみれば、これほど腹立たしいこともないだろう。
 そのシュヴァーン隊長が、ユーリ・ローウェルの脱獄の件に何のかかわりがあるのか……騎士Bには全く想像がつかなかった。
「どういうことなんだ?」

「俺も直接、その場に居合わせたわけじゃないんだが、いつものようにキュモール隊長がシュヴァーン隊長にイヤミを言ったらしいんだ」
 騎士Bはやや疲れた面持ちになった。
「……懲りない人だな」
 まったくだと言わんばかりに騎士Cがうんうんと頷いている。
「案の定、シュヴァーン隊長に逆に痛いところを突かれたらしく、逆ギレしてだな…」
「? 痛いとこを突くってキュモール隊長のか? それとも隊全体のことか?」
 原因と結果のつながりが理解できず、騎士Bはけげんな顔をした。
「それは…俺もよく聞いてないんだが」
 逆ギレするくらいだから余程のことなのだろう。
 自尊心が高く、気に入らない者を潰したがるキュモールだけに、シュヴァーン隊長はよくもまあ平然とあしらっているものだと、騎士Cは常々感心していた。そのくらい毎度のことすぎて、うっかり仔細(しさい)を聞きそびれてしまった。
「今回の一件ではユーリ・ローウェルの脱獄だけでなく、エステリーゼ様の拉致というとんでもない事件にまで発展しているだろ? けど同時に謎の暗殺集団の一件もあった。アレクセイ団長閣下が全責任を負うとかいうんで、キュモール隊長は逆ギレついでに、自分も、自分の隊も一切関係ないとか言ったらしい」
「嘘だろ?」
 それは、隊長としてあまりに無責任な発言ではないか、と騎士Bはあきれ返った。いくらキュモール隊長が名家の出であっても、騎士として許されるとは到底思えない。
「嘘なものか! まあ、俺も最初は自分の耳を疑ったけどな。こうして始末書も書かずに済んでいるんだから、本当だろうよ」
「シュヴァーン隊長さまさま…だな」
「まったくだ。あの人は偉ぶったりしないし、いつも特務で帝都にゃいないけど、団長閣下のご信頼も厚いし、何より部下思いだからなあ」
 部下思いという言葉に、口にした騎士Cも、聞いていた騎士Bもがっくりと肩を落とした。彼らの隊長であるキュモールは、残念ながらその言葉から程遠い人物だったからだ。
「と、とにかくだな! 今回の一件については、俺たちはお咎め無しになったんだし、良かったよ」
 騎士Cは努めて明るく振る舞った。
「本当になあ。俺は、ちょっと騎士団長閣下を見直したよ」
 しみじみと騎士Bが言った。
「そうだよな。騎士の中の騎士って言われるだけのお方だよ。死者が出るような危険な一団が城内に侵入しただけでも大問題なのに、よりによってエステリーゼ様の拉致まで重なって……。考えるだけでも震えがくる内容だぜ」
 騎士団と評議会の間はまったくもって、うまくいってない。評議会のお偉方がどんな恐ろしい追及をするか、騎士Cは想像したくもなかった。
 だからこそ…と騎士Bの声が強くなる。
「親衛隊の奴らが心酔してるっていうのも分かる気がする。全ての責任を負ってくれるだなんて、俺もあの方について行きたくなったからな。近寄りがたい方だなんて思ってて、俺、反省してんだよ、今」
「俺も正直、偉そうだし、怖そうだと思ってたよー」
 だいたい、目が怖いよな。笑ってないし。鋭いし。
 はははと微妙な笑い声を立てる騎士Cの隣で、騎士Bは両手を強く握りしめた。
「よくよく考えると、かっこいいよな。頭もいいし、剣も強いし。シュヴァーン隊長も相当の使い手と聞いてたけど、相手が団長閣下だと3分しかもたなかったんだろ?」
 騎士Bの言葉に、騎士Cは手を組んで空を仰いだ。
「らしいぜー? 俺さあ、その試合、すごく見たかったんだよなー。3分でもかなり見応えがあったに違いないよ」
「そうだな。違いないよ」
 2人とも、何かしらのあこがれを抱いて騎士団に入団した。
 理想と現実が異なることは、よくあることだ。配属先の隊長は怖いし、他の騎士にはいじめられるし、ろくなことがなかった。
 それでも、騎士の鏡となるような人物が存在することは、希望に思えた。
 牢屋番なんて地味な仕事だが、初心に返って頑張ろう…2度と脱獄など許さないように。
「おまえ、当直終わったら、今夜、飲みに行かないか?」
 騎士Bの言葉に、騎士Cは喜色をあらわにした。
「ああ、いいな、それ。昨日が昨日だけに、明日への活力は必要だよな」
  2人の騎士は約束を交わし、それぞれの持ち場へ戻っていった。



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■参考スキット……「アレクセイとの決戦について」
■当サイト内の関連SS……「ユーリと出会う前後3

+++読まなくてもいい話+++
 アレクセイ……個人的にはポリゴンの方の髪型が好きです。強そう!!! 
 実は最近、アレクセイのこといっぱい考えます。何がどうなって、彼はあの道を選んだのか……。もともとフレンみたいに、まっすぐな感じの人だったのかなーとか妄想が膨らみます。すごく強いんだろうなーとか、頭キレそう!とか。
 デューク戦は正直、デュークがいい人だっただけに、やっつけようという気分になりにくかったので、裏ボスでアレクセイ出てきたらすごく楽しかったのに!!!! とか心底思いました。心臓魔導器を自分に埋め込んで復活ーーーーとか!
 うわ、そんな絵が描きたくなってきた……。



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2009.09.07















 

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