団体戦・勇壮   

 「まったく、ふがいなぁい!!!」
 小隊長の怒声に、アデコールとボッコスは反省することもなくぼやいた。
「ルブラン隊長はいつも声が大きいのであ〜る」
「まったくなのだ!」
 闘技場には挑戦者を待つための控室がある。ユーリたちが再び団体戦に参加するらしいと聞いた三人は、迎え撃つためにその部屋へと向かっていた。
「けしからん、それでも栄えあるシュヴァーン隊の騎士か!!!」
 ルブランはさらに声を張り上げたが、2人の下級騎士は大きなため息を吐いただけだった。
「大体ユーリ一味はずるいのだ! アイテムも、次から次へと使うし……」
「エステリーゼ様の治癒術にも困ったのであ〜る。バーストアーツを決めたというのに、あっという間に回復されてしまったのであ〜る」
「騎士たるもの、いつまでもぐちぐちと言うものではなーい!!!」
 
ルブランは割れんばかりの声を上げた。アデコールとボッコスはたまらず耳をふさぐ。
「よいか、今度こそ、我らシュヴァーン隊の真の力をあやつらに示してやるのだ」
 鼓舞するようなルブランの言葉を聞いても、アデコールもボッコスも全く元気は出なかった。
「我々はシュヴァーン隊の騎士なのだ。でも……」
「シュヴァーン隊長はユーリめと一緒に、我らに戦いを挑まれてきたのであ〜る……」
 うつむく2人の騎士を前にして、ルブランは返す言葉を失った。
 前回、闘技場にて団体戦に参加したとき、ユーリたちをぎゃふんと言わせてやろうと意気込んだルブラン小隊だったが、結果は惨憺たるものだった。
 対戦したメンツが悪すぎたのだ。
 まずは本命のユーリ・ローウェル。
 一番とっちめてやろうと思っていた奴だ。ユーリのために参加したといっても過言でないくらい、ルブラン小隊には色々と禍根を残した男である。とんでもない手だれではあるが、彼はいい。むしろ望むところだ。
 だが、他の三人がいけなかった。大層戦いにくかった。
 まず、フレン騎士団長代行。
 事実上、騎士団のトップだ。まだ若いが、すでに騎士団長の地位を得ているのも同然だ。つまりは、ルブランの上官にあたる。それも、上の上のそのまた上の地位にいるお方だ。
「あの真面目でお硬い団長代行が、任務以外で闘技場に出るとは……思いもしなかったのだ…」
 秘奥義をまともにくらったボッコスは、思いだしたのかぶるっと震えた。
 エステリーゼ姫様もいけなかった。
 たとえ、皇帝候補ではなくなったとはいえ、姫君であることに変わりはない。しかも女性である。シュヴァーン隊の騎士はとくに、女性には優しく丁寧に接することが義務つけられている。時と場合にはよるが、れっきとした隊長命令だ。
「あまり攻撃してはいかんと思っていたら、魔術で狙い撃ちされたのであ〜る」
 フォトン、ホーリィランス、グランシャリオと続けざまにくらったアデコールもまた、ぶるっと震えた。
 そしで最後の一人。
 彼が一番良くなかった。
 ほかの誰よりも戦い辛かった。辛すぎた。
 派手な着物にざんばら髪。今は「レイヴン」として生きることを決めた、かつての隊長首席。
 剣を持たず、弓と小太刀で戦う姿は、騎士としての彼を見続けてきたルブランにとっては直視し辛い姿だった。胸がつぶれそうな思いに囚われる。
 納得したはずのことなのに、もうあの方は戻ってこないのか……そんなやるせない気持ちになってしまう。
「そうだな……また……シュ…レイヴン隊長と戦うことになるかもしれんな……」
 普段とは打って変わって、がっくりと肩を落とし、小声でつぶやくルブランに、二人の下級騎士はさすがに慌てた。
「小隊長どの、元気を出すのであ〜る」
「そうなのだ! 今度こそ、ユーリをけちょんけちょんにしてやるのだ」
 ルブランも分かっていた。本当はユーリと戦うことが目的なのだと。
 だが本当にそれだけなのか。
 むしろ自分には、レイヴン殿に会いたい気持ちもあるのではないか。
(隊長はおっしゃったではないか。自分で考え、自分で行動せよと)
 首を左右にふり、ルブランは控室の扉に手をかけた。ゆっくり押しあける。
 ここでまた、彼らが挑戦してくるまで待つのだ……。
「遅いな。騎士ならばもう少し迅速に行動すべきではないか?」
 ぽかんとルブランはその人を見上げた。
一瞬、わが目をうたがった。ここに居るはずのない人だった。
「あッ……」
「え……」
 アデコールもボッコスも、ルブランの後ろで硬直したまま動けないでいる。
 すらりとしたその人は、黄金色の鎧を身につけていた。橙色の肩あて、同じ色のマント。肩よりも少しだけ長い黒髪。 脇には長剣を下げ、慣れた手つきで小手をはめている。
「シュ……ヴァーン隊長……」
 絞り出したようなかすれた声しか出なかった。
「どうした、ルブラン。俺の顔も見忘れたか」
「い…いえ、とんでもありません!」
 威厳のある面持ち、凛としたたたずまい。忘れられるはずなどなかった。
 夢から覚めたように、慌てて3人は控室に入り、直立不動の姿勢を取る。
 訪れる沈黙。
 アデコールもボッコスも、そしてルブランも、喜びと同時に緊張で顔をこわばらせた。
 シュヴァーン隊長は部下には優しいが同時に厳しい方でもある。アデコールとボッコスの額に大量の汗が浮かんだ。
 シュヴァーン隊の名乗りを上げたのに、闘技場で見事な負けっぷりを披露してしまった。騎士団の面子にもかかわる一大事だ。
「シュ……シュヴァーン隊長におうかがいしたいことがあるのであります」
「何だ、言ってみろ」
 低い声。10年も耳にしてきた抑揚の薄い口調。ルブランの胸に熱いものが込み上げたが、ぐっとこらえた。
「なぜ、隊長はここにいらっしゃるのでありますか? 騎士として無様な姿をさらしました。ですが、ご叱責を受けるのは私一人で十分であります。私の部下たちは……」
「勇敢に戦った騎士をなぜ叱らねばならん」
「……は?」
「シュヴァーン隊を名乗るのだ。隊長が指揮を取らねばおかしいだろう」
 眼を見開いたのはルブランだけではなかった。アデコールもボッコスも信じられない様子で隊長を凝視した。
(隊長が帰ってきてくださった……)
 肩が震えた。視界がかすむ。込み上げた熱いものが、まぶたから転がり落ちそうで、ルブランは歯をくいしばった。
 ここで泣いたら男の恥だ。
「騎士の誇りを彼らに示すのではなかったか? 行くぞ」
 マントをひるがえし、シュヴァーンはきびすを返した。向う先はユーリ・ローウェルが待つ闘技場。
「はっ、はいっっ」
 3人の騎士は即座に後を追った。



「ったく、おっさんには参ったぜ」
 ユーリはやれやれとばかりに宿屋のベッドに腰かけた。
「本当なのじゃ!しかも秘奥義を使いすぎなのじゃ!」
 頬を膨らませたパティをなだめるようにフレンも続けた。
「どうりで姿が見えないとは思いましたが……」
「何よ、おっさんは何もしてないもーん。戦ったのはシュヴァーンだしぃ」
 つーんとそっぽを向くレイヴンに、リタが「うざっ」ともらした。
「あら、おかしいわね。戦っている途中でとてもあなたらしい声を聞いたのだけれど」
 ジュディスの問いかけにレイヴンはあわてた。
「なっっ、それは、リタっちが……」
「何? あたしのせいだっていうわけ?」
 リタが声をとがらせる。
「ジュディスちゃんが脱いでるって聞いたら、そりゃだれでも反応するでしょ。リタっちとは違ってー」
 断言するレイヴンをリタは見据えた。目は座り、口調にも変化が生じてきている。
「……どーゆー意味?」
 まさに一触即発。ピリピリとした緊張感がただよう。
 いつものことではあるが、見過ごすことができず、フレンがなだめに入った。
「ま、まあ、個人の好みの問題だから気にすることはないんじゃないかな……レイヴンさんは多少マニアックなところがあるようだし……」
「ちょっとフレンちゃんーーーー??? おかしいでしょ、それ! 何がどうマニアックなのよ」
 心外とばかりにレイヴンが抗議すれば、リタも負けじと非難する。
「そうよ。どういうこと、個人の好みって! 完全なセクハラじゃない!」
 さっきまでの剣呑な雰囲気はどこへやら、2人そろってフレンに吠えついた。
「えっっっ? いえ、僕は別に……」
 フォローどころか逆に反感を買ってしまい、フレンは慌てた。必至に弁解するが、こういう時のレイヴンとリタは、なぜか恐ろしく息が合っていて始末に負えない。
 弱り果てたフレンはユーリに視線を投げかける。
 ユーリは立ちあがって、両者の間に割って入った。
「おっさんも、リタも、もういいだろ? それにフレンもだ。まだ、水着の点数気にしてたのか」
「ウチは、ある意味90点をもらったのじゃ」
 パティが元気よく拳を天井に向かって突き上げる。
「……それが原因だっつうの……」
 疲れたようにユーリは軽く頭をかいた。
「そうよ、おっさん! 何であたしが2点なワケ?」
「何でも何も、つるぺたリタっちにこれ以上何点つければいいのよ?」
 レイヴンは開き直ったのか、真顔で返答する。
「俺様にとっては、とてつもなく妥当な点よ」
「……今すぐぶっとばーす」
 リタの足元に魔方陣が浮かび上がる。
「ま…待つんだ、リタ。逆に他と比べてそこまで点が低いのは、別の意味もあるかもしれないよ。本当はもっと高い評価だけどあえて低く言ってみたとか……」
「フレンちゃんは全っ然分かってないわ!」
 レイヴンが即座に否定をすれば、リタは「他と比べてそこまで点が低い……って…どんだけあたしをバカにすれば気が済むのー!?」とさらに怒り心頭になっている。
「だからやめろって」
 ユーリまで混ざって、わあわあと騒ぎ始める。
 エステルはくすっと笑った。
「今回のこと……私はよかったと思います」
「あら、何が?」
 傍観に徹していたジュディスは、わずかに首をかしげた。
「レイヴンはシュヴァーンの全てを否定するようなところがありました。でも私が聞いていた彼の噂は違うものでしから……。彼の中で何か気持ちに変化があったのかもしれません」
「そうね、私たちに黙って、自ら騎士の鎧を身につけていたのだものね」
「それに何より、ルブラン小隊のみんな、すごく嬉しそうでした。ユーリやフレンも」
「彼自身も楽しそうだったし、ね」
 彼とは他ならぬレイヴンのことだろう。エステルはこくんとうなずいた。
 元隊長は笑っていた。
 「本気で行くぞ」
 そう言った彼の顔は高揚感に満ちていたような気がする。
 部下をしたがえ、騎士の鎧に身を包み、一時の間だけ蘇ったシュヴァーン。
 全力で戦い、その結果負けたのに、シュヴァーン隊の面々は不思議と晴れやかな表情をしていた。
「もう、みんな宿屋が壊れちゃうから、やめてってば!」
 カロルの声がする。
「そろそろ止めに入った方がよさそうかしら?」
 ジュディスの声にエステルは「そうですね」とほほ笑みとともに答えた。


「隊長……本当にお強かったのだ……」
 控室のベッドに仰向けにひっくりかえったまま、ボッコスは感嘆の声をもらした。
 身のこなしも軽やかで、素早く敵に斬撃をお見舞いしていた。
「魔術にも長けておられたし、カッコ良かったのだ」
「そうなのであ〜る。ユーリめ、戦闘不能になってていい気味なのであ〜る」
 アデコールもまたベッドに横になり、治癒術師の治療を受けていた。
 かなりの傷を負ったというのに、得意満面だ。
「ばっかもーん!!! シュヴァーン隊長は人魔戦争を生き抜いた英傑だぞ。お強くて当然だ」
「ルブラン小隊長殿は、怪我をしてても声が大きいのだ……」
「それにシュヴァーン隊長の英傑の話は、もう耳にタコが出来るくらい聞いたのであ〜る」
 不遜な態度の部下2人に、ルブランはさらに怒声を飛ばそうとして、アイタタタと背中をおさえた。
「小隊長殿、今はゆっくり休まれた方がいいのであ〜る」
「そうなのだ。奴ら、また挑戦してくるかもしれないのだ。その時こそギャフンと言わせてやるのだ」
 ルブランは椅子に腰掛け治療を受けながら、目を伏せた。
 瞼の裏に焼き付いている。
 黄金色の鎧と真紅の剣。
 騎士団の演習で剣を振る姿は見たことがある。だが、常に特命を受け、帝都を離れていることの多かったシュヴァーンが全力で戦う姿など、ルブランのような小隊長が目にする機会など無かったに等しい。
 今までは。
 あこがれと敬愛の念を捧げてきた隊長が、噂以上の強さを誇っていた……剣の腕も確かなら、魔術さえも楽々とこなす。それだけでルブランは感涙しそうだった。
 いや、ユーリたちと戦っている最中に、すでに滂沱の涙を流していた気がする。
 すぐそばで、ともに戦える喜び――。
「そうだな。次こそシュヴァーン隊長とともに、ユーリめをとっちめてやる」
 アデコールとボッコスは一瞬顔を見合わせ、即座にはいっと頷いた。



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※参考スキット…「点数」
※参考サブイベント……「闘技場 団体線・勇壮」「騎士団隊長首席」

+++読まなくてもいい話+++
その1。 
ルブランはいつからシュヴァーンの部下だったのか……シュヴァーンが人魔戦争の功績により隊長に昇格したっぽいので、それ以後かなあと思いますが、数年であれほどの信頼を得るのもやや嘘臭い気がして、とりあえず、10年くらいかなと妄想してみました。シュヴァーンよりもおそらく10は年上っぽいルブランですが、彼がそこまでシュヴァーンに入れ込むとこみると、本当に統率力というかカリスマというか、部下に慕われる上官だったんだと思います。

+++読まなくてもいい話+++
その2。
追加要素の一つ、団体戦が良すぎる!!!!!
レベル足りないので無慈悲はちょっとまだやれてないですが、いいよ、勇壮!!!!
夢のシュヴァーン隊との対戦。もう浮かれまくりでした。
大体、戦闘開始直後の掛け合いがヨイですね!!! 案の定、シュヴァーンがしゃべってくれて!!! リタとパティが同じ内容を言うんですが、ジュディスが脱いでるって言葉を聞いた瞬間「レイヴン」に戻ってるトコがまた!!!
ユーリが「誰でもいいさ。もう一度あんたとは戦いたかった」みたいなセリフを言うのも良かったですね! 「フレンとの手合せ」を書いた時、ユーリやフレンはきっとシュヴァーンともう一度戦いたいんじゃないかって勝手に空想してましたが、空想じゃなかった! ホントに良かったです♪

で、あまりにテンション上ってしまったので、原稿そっちのけで上の小説書きました。というか、本当はシュヴァーン隊の面々だけのお話の予定が、後半のパーティキャラギャグまで入れてしまった……。水着ネタとかまで入れる予定なかったのに。
いえ、団体戦やったあと、みんなの反応とかどうだったのかな?とか妄想が膨らみすぎてこうなりました。
カロル君も入れたかったけど、さすがに入らず。クリントはもちろん、ドッカン王も、強かったです♪
はあー、楽しすぎだよ、ヴェスペリア!!!!

ついしん。
もちろん、隊長首席兜は手に入れましたよ!!! 顔がかくれてあんま見えないのがちょい辛いけど、良すぎ、コレ!!!
ユーリの追加衣装と似たデザイン!?な気もしました。
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2009.11.15.















 

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