シャゴシムの花   

 「おっさん、あの時、ヘリオードに居たのか?」
 「へ? 何の話?」
 「さっき言ってたろ? ヘリオードの時みたいになったら大変だとか何とか」
 シャゴシムの花壇の前で、ユーリは尋ねた。他の仲間たちは、船旅を前にして道具を買ったり、宿屋で体を休めたり、バカドラが本当に居ないのか探し周ったりと、早々にこの場を立ち去ってしまった。
 残ったのはユーリとレイヴンとラピードだけ。
 「言ってたっけ? そんなこと?」
 首の後で手を組んだままレイヴンはへらへらと答えた。
 「すげぇな、おっさん。いきなり記憶喪失か?」
 咲き乱れるシャゴシムの花、エアルの乱れ、そしてジュディスの行為。
 レイヴンが例に出したのは、ヘリオードでの結界魔導器の暴走だった。
 「まるで見てきたような口ぶりだったよな? あの街で何してたんだ?」
 ユーリに問いただされ、レイヴンはあごに手を当てうーんと唸った。
 「何してたも何も、あの街通らなきゃ、ダングレストに行けないじゃないのよ」
 「……ま、そうだな」
 必然的に通り抜けしなければならない位置に作られた街……。しかも帝国が新たに作った街だ。
(貴族の街とか言ってたが、本当は違うんじゃねぇか……?)
「参ったわよ? 騎士団の連中がいつもよりたくさん居たからねぇ。 あんなにたくさん居たんじゃ、おっさん、何にも出来ないわ」
「おっさんの場合、見るからに胡散臭いからな」
「ちょっとぉ、青年ってば、それはひどくない? ……ま、確かに、騎士団が減ってから通り抜けたけどさー」
 すねたようなレイヴンの反応に、ユーリは笑った。
「結界魔導器の件、噂になってたのか?」
 レイヴンがうんうんと大袈裟な素振りで頷く。
「そりゃもー、すごかったわよ? 女の子が暴走を喰い止めようとしてたとか、騎士団が役に立たなかったとか」
「へぇ……。2度目に行った時は、人が減ってたからな……。あんまり噂は聞いてねぇな」
「そうよ、それ!」
 レイヴンが食い付いた。 
「青年たちってばやりすぎよ。労働者キャンプに降りてった時はどうしようかとハラハラしたけど。……まあ、これであの街も、少しはまともになるかもねえ」
 青年の親友、仕事出来そうだし! そう言って片目をつむる。
「そうだな」
 肯定してから、ユーリはふと、疑問を抱いた。
 まるでずっと以前からヘリオードはまともでは無かったかのような口ぶりにも聞こえる。
 追いついたと思ったら面倒なことに首をつっこんでたとは、レイヴンの弁だが、それで労働者キャンプの実態までつかめるものなのだろうか。
「おっさん、俺らを追って、ヘリオードまで来てたなら一体どこで……」
「そーよ、青年! 色仕掛け作戦したって本当!?」
 いきなり話を振られ、ユーリは面食らった。
「え? ああ、したけど。ジュディもエステルもすごい服着て……」
「何で、おっさんに教えてくれないの!!!????」
「いや、だっておっさん居ねえし」
「ひどいじゃないのよ!!!!」
 じたんだを踏むレイヴンに、ユーリはやや疲れた。おっさんは胡散臭くはあるが、やっぱりおっさんなのだ。
「教えてよ、ねぇ! 特にジュディスちゃん! どんな服だったの!?」
「その話はまた今度な。 ラビード、俺たちも宿へ戻るか」
「ワンッ」
「あんまりフラフラしないで、おっさんも早く戻れよ?」
 宿へ向かうユーリの隣をラピードがトコトコと歩いてゆく。
「ちょっとー、青年ってば、意地悪しないでよー」
「聞きたきゃ、ジュディスに直接聞きな」
 レイヴンは頬を膨らませた。
「本人に聞いてどうすんのよ…」
 ユーリの背中を見ながら、ふっと笑う。
「ま、確かにアレはすごかったけどね」
 小さなつぶやきは、誰の耳にも届かなかった。
  

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■参考サブイベント……「竜使い出現?」(公式の攻略本記載ではこの名前でした)
※PS3版を元に書いてます。


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2009.09.27.















 

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