ガスファロスト――フレンの疑念   

 「フレンって、もっと近寄り難い人かと思ってたけど、いい人だね。なんだかユーリとは全然違うタイプに見えるよ」
 ユーリとフレンは、まるでこれまでの時間の溝など無かったかのように、ごく自然に隣に立っている。
「レイヴンは……どうしてさっきからフレンの側に行かないの?」
 カロルは不思議そうにレイヴンを見上げた。フレンがせっかく一緒に行くことになったのに、レイヴンだけが常に距離を取っている。会話らしい会話もない。
「何よ、少年だって、ちょっとしゃべっただけじゃない。それに緊張しすぎでガチガチよ? 」
「ま、まあ、そうだけど」
「だーいーたーいー、ジュディスちゃんみたいな絶世の美女ならともかく、何でわざわざヤローと交流を深めなきゃならんのよ」
「ごめん、レイヴン。僕の質問が間違ってた……」
 うつろな目をしたカロルに、レイヴンは少し笑った。
「まあ、俺様、あんまり騎士団とは関わりたくないのよね。ほら、ドンの命令であちこち行ってるでしょ? あの小隊長さんに顔でも覚えられたらやっかいだもん」
「そうか……そうだよね」
 カロルは納得した。やはりレイヴンは「天を射る矢」の幹部クラスなのだ。もしかしたら幹部の中でも、かなり地位が高い方になるのかもしれない。だとすれば余計に、ギルドの人間が騎士団の……それも小隊長クラスと親しげにするのはよくない気がする。
 あれだけ派手な服装をしている時点で、確実に覚えられそうなものたが、カロルはそこまで思い到らなかった。
「さてっと……俺様はジュディスちゃんと交流を深めようかなー♪」
 ジュディスちゃーんと叫びながらスキップするレイヴンに、どこからともなくリタの帯がムチのようにしなりながら飛んだ。
「ぎゃーっっ!」
 レイヴンは顔をおさえてうずくまった。
「おっさん、うざっ」
「痛い、痛い、痛い!!! いきなり何よ、リタっち! 俺様が何したっていうのよ!!!!」
「ちょっと当たっただけでしょ? ツバでもつけときゃ治るわよ」
 リタはしれっと言い放った。
「ひどい……ひどいわリタっち……」
 ぐすんぐすんと涙を拭くしぐさをするレイヴンをエステルが心配そうに覗きこむ。
「あの……大丈夫です?」
「はー……嬢ちゃんはホントにいい子だねー」
「ちょっとエステル!!!  おっさんの心配なんて必要ないわよ!!! どーせおっさんなんだから」
 腰に両手を当てて怒っているリタと、帯が当たって顔が赤くはれているレイヴンとを見比べ、エステルはおろおろした。
「え……ええと……」
「ちょっとお……天才魔道少女は手厳しいわね……どーせって何よ。嬢ちゃんも困ってるじゃない」
「あんたが困らせたんでしょ!!!」
「おっさん!? え? おっさんのせい???」
「当たったり前じゃない。何よ、文句ある?」
 そのままいつものように派手な喧嘩を始めたレイヴンとリタを、フレンは距離を置いて眺めていた。
 彼のまなざしは、まっすぐレイヴンに向けられている。
 その顔に……。
「どうした、フレン?」
 凝視する様子があまりにも不自然で、ユーリは訊ねた。
「彼は……ギルドの人間だそうだね」
「おっさんか? 天を射る矢の幹部だそうだぜ。見えねぇけどな。おまえもドンに書状持ってきた時に会ってるだろ?」
 フレンが差し出した書状を読みあげたのは他でもない、レイヴンだった。
「……ああ」
 フレンは返事をしつつも、ファイアーボールをくらって熱がっているレイヴンから視線を外さなかった。
 ユニオン本部で初めて会ったあの時も思った。「あの方」にあまりに似すぎている……と。
 ヘリオードで久々にその姿を目にしたせいかもしれない。
 だが、あの方であるはずがない――とも思った。こうして共に行動することになってから、その思いは強くなる。
 あのような身なりで、あのような口調で、あのような様子で……何もかもが違いすぎている。
 少なくともフレンの知る「彼」とは、別人だった。
「フレン?」
 けげんな顔のユーリに、フレンはゆるく首を振った。
「いや……何でもないよ」
 
(今は、バルボスの方が先だ)
 そのために今、自分はこの場所に居るのだから………。

 
 

  

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※PS3版を元に書いてます。


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2009.10.3.















 

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