騎士Aが捕まえた男 2

 城門の手前まで来たところで騎士Aは足を止めた。
 「デコボココンビじゃないか。どうしたんだ?」
 「デコと言うなであ〜る!」
 「ボコじゃないのだ!」
 背が高くひょろりとしたアデコールと、小柄で丸っこいボッコスは、シュヴァーン隊・ルブラン小隊長直属の下級騎士だ。
 有能とはとても言い難いのにもかかわらず、隊長首席の名の元、常に尊大な態度をくずさない。
 その2人が、反り返るほどの直立不動で待ち構えている。
(どうしたんだ、こいつら?)
 不審を通り越して、もはや異常だ。
 その上、騎士Aに向かって
「お勤め御苦労様です、なのだ」
「お待ち申しあげていたのであ〜る」
 深々と一礼までした。
「あ…、ああ…」
 生返事をしながら、騎士Aは思わず空を見上げた。
 これは一体なんの前触れだ!? 
 さきほどのシュヴァーン隊の騎士もやたら丁寧だったが……これはまさか、俺に取り入ろうって魂胆か? 
 騎士Aは近々昇格が決まっている。月が変われば城内警備に配置換えとなるが、それが関係しているのだろうか。
「あー……そこの騎士殿がたぁ」
 何を思ったか、騎士Aの後ろから、捕まえた男がデコボココンビに話しかけた。
「はっっっっ!」
 下げた頭を跳ね上げ、2人そろって起立の姿勢を取る。
 ますます異常だ。
「さっき、でっかいワンコ連れたぁ黒髪長髪のあんちゃんが、貴族街の……確かモルディオさんだっけ? その人の屋敷に忍び込むとこ見ちゃったんですけど」
「犬を連れた!?」
「黒髪長髪の!!!!」
 男はわざとらしく考え込むそぶりを見せた。
「あれ、いいんですかねぇ?」
「ただちに捕えてまいります、なのだ!!!」
「ユ〜リ〜・ロ〜ウェ〜ル!!! お縄をちょ〜だ〜いなのであ〜る!!!!」
「あっ、待てお前ら…こんなうさんくさいヤツの言うことを……」
 騎士Aが止める間もなく、デコボココンビは貴族街へと駆け出して行った。
「な…何なんだあいつら……」
「いやあ、さすが帝国の騎士様。一市民の通報に対して真面目だわ」
 へらへらと笑う男を騎士Aは一喝した。
「一犯罪者の間違いだろうが!!!」
「あら、うまいこと言うじゃないの」
 なぜだろう。男には余裕さえ感じられる。これから牢へぶち込まれることをまるで理解してないようだ。
 まったくなんてヤツだ。
 騎士Aはだんだん疲れてきた。
 ここはやはり、即刻牢番に引き渡し、職務を遂行してしまった方がいい。
「さっさと歩くんだ!!」
「へい、へいっと」
 その時初めて、騎士Aはおやっと思った。
 やや浅黒い肌…黒い髪…その横顔……。
「ん? おまえどこかで会ったことないか?」
 一度そう思うと、声までどこかで聞いたことがあるような気がしてくる。
「えー? 俺様としては、会ったことないはずなんだけど」
 男はぽりぽりとさんばら頭を掻いている。
 ギルドの連中を思わせるうさん臭さと隙の無さが漂い、どこをどう見てもまっとうな一市民には見えない。
 見えないのだが…。 
 騎士Aは穴のあくほど男を見つめた。この顔…まさか…。
「え? どったの? 騎士サマ」
 男がきょとんとした顔で見返してきた。
「いや……そんなわけ……あるはずないよな」
 頭を軽く振ってから、騎士Aは息を吐いた。
 きっと思いすごしに違いない。
 他人のそら似などというものは、掃いて捨てるほどあることだ。
 大体こんなうさん臭くて、だらしない風体の輩が、あの方であるはずがない。
「俺も疲れてんのかな」
「ねーねー、騎士サマ、さっさと行きましょうや」
「わかっている!」
 何で俺が犯罪者に指図されなきゃいけないんだ…騎士Aは心の中で悪態をついた。




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2009.05.21.